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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)6584号 判決

原告

山寺正美

ほか一名

被告

佐藤司建設工業株式会社

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告ら各自に対し、各自金一六九六万〇八七三円及びこれに対する平成七年九月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告平尾英二が道路上に駐車していた普通貨物自動車に山寺巧が運転する原動機付自転車が衝突し、同人が死亡した事故につき、同人の相続人である原告らが被告平尾英二に対しては、民法七〇九条に基づき、被告佐藤司建設工業株式会社に対しては、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠により比較的容易に認められる事実

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成七年九月二七日午後九時五二分頃

場所 大阪府吹田市南吹田五丁目一番先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通貨物自動車(大阪一一は三〇四三)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告平尾英二(以下「被告平尾」という。)

右保有者 被告佐藤司建設工業株式会社(以下「被告会社」という。)

事故車両二 原動機付自転車(以下「巧車両」という。)

右運転者 山寺巧(以下「巧」という。)

態様 被告平尾が交差点直前の歩道橋真下の駐車禁止場所に夜間にもかかわらず無灯火で被告車両を駐車させていたところへ、後方から巧車両が被告車両後部に衝突したもの。

2  巧の死亡・相続

巧は、本件事故の結果、平成七年九月二七日午後一一時一五分頃、死亡した。

巧の死亡当時、原告らはその親であった(甲二)。

3  被告らの責任原因

(一) 被告平尾の責任原因

被告平尾には、交差点直前の歩道橋真下の駐車禁止場所に夜間にもかかわらず無灯火で被告車両を駐車させていた過失がある。

(二) 被告会社の責任原因

被告会社は、被告車両の保有者である。

4  損害の填補

原告らは、本件交通事故に関し、自賠責保険から二一〇九万七四一六円の支払を受けた。

二  争点

1  損害額

(原告らの主張)

(一) 逸失利益 五七五一万六七八一円

巧は、死亡時、大阪府立吹田東高等学校三年生一七歳であり、大学進学希望であった。就労可能年数は四九年である。

巧の得べかりし年収は、賃金センサスによる男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金を基準として、四八四万三六〇〇円と算定するのが相当である。そして、生活費控除率を五割として、新ホフマン式にて中間利息を控除して(係数二三・七四九六)、逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりになる。

(計算式) 4,843,600×(1-0.5)×23.7496=57,516,781

(二) 慰謝料 二〇〇〇万円

(三) 葬祭費用 二五一万二七〇〇円

(四) 弁護士費用 原告らにつき、各一五〇万円

(被告らの主張)

否認する。

逸失利益算定の基礎収入は、賃金センサスによる男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計一八~一九歳の平均賃金によるべきである。

葬儀費用は、巧が本件事故当時、高校生であることから、原告らの請求額は相当性を欠く。

2  過失相殺

(被告らの主張)

被告平尾が被告車両を駐車していたのは、歩道橋の下ではあるが、車体の約三分の二は歩道橋の手前に位置していたものである。しかも、巧の走行してきた西行車線の幅員は、ゼブラゾーンを含めて六・五メートルであり、被告車両は左側二・二メートルの部分に駐車していたのであるから、同車線にはその右側四・三メートル(ゼブラゾーンを除いても二・八メートル)の余裕があった。

また、現場のすぐ東側歩道には街灯もあり、現場は全体として明るい状態であった。

以上のとおりであるから、被告車両が違法に駐車されていたとしても、東から走行してくる車両の運転者は通常これに衝突することなく右側に避けて走行することが可能であったのであり、本件事故の発生は、ほとんど巧の前方不注視等の一方的過失によるものである。

(原告らの主張)

被告平尾は、本件事故当日の午後九時頃、本件事故現場が駐車禁止場所であることを知りながら、被告車両を西行車線のほぼ半分を占拠して駐車させた。被告平尾が被告車両を右場所に駐車したのは、翌朝被告会社の車庫に取りに行く手間を省くという身勝手な事情に基づくものである。しかも、被告平尾は、被告車両の尾灯も駐車灯も点灯していなかった。被告車両は、四トントラックであるが、右駐車の際には、長い鉄筋・鉄パイプを積んでおり、それらがボディーよりもはみ出していたため、後部のあおりをチェーンで吊っていた。この鉄筋・鉄パイプは追突すれば直接生命を脅かす凶器となるものであり、あおりは水平状態のため後からは見えず、鉄筋・鉄パイプの先端が暗く黒ずんで見える状態であった。また、被告車両のボディーの色はグレーであり、後から見える荷台の上の運転席は、夜間においては特に周囲の暗さと識別しがたいものであった。

被告車両の運転席の真上には横断歩道橋がかぶさっており、その影で、運転席部分のボディーは、後方からはほとんど見えない状態であった。被告車両が駐車したすぐ左側には横断歩道橋の階段があり、さらにその左側には建築中の八階建マンションがかぶさるようにして建ち、左側からの光は全くなかった。被告車両の反対車線のさらに右側約二一メートルの位置に「スーパーSAKURA」があり、その屋根の上にネオンがある。しかし、その光は上空に向かっており、被告車両には薄くしか届いていない上、反対車線側の横断歩道橋の階段と橋が間にあって薄い光をも遮断する状況となっていた。駐車した被告車両の後方では、左側斜め後ろ約一七メートルに街灯が立っており、これがかなり明るく感じられる。後方の右側斜め後ろ約五〇メートルに街灯が立っているが、これは暗く、後方にはその他に光源はない。以上の状況のとおりであって、本件事故現場は暗かったものである。

巧の過失割合は、被告平尾の危険かつ身勝手な違法駐車と不適切極まる駐車場所の状況と対比すれば、被告平尾の過失割合を上回ることはなく、三五パーセントとするのが合理的であり、せいぜい四〇パーセントをもって相当とするべきである。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点3について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(乙一、検甲一)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府吹田市南吹田五丁目一番先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場の道路は、東西方向の片側一車線の市道であり、各車線の幅員は、ゼブラゾーンを含めて約六・五メートル(ゼブラゾーンを除くと約五メートル)であり、最高速度時速四〇キロメートル、終日駐車禁止の規制がなされている。本件事故現場は、本件道路の西行車線上で、本件事故現場付近では直線で見通しがよく、路面は平坦である。本件事故現場は、午後九時頃にあっては、明白に明るいとまではいえないものの、信号機の明かりの外、別紙図面記載のスーパーSAKURAの屋根の明かり、店舗内の明かりにより、やや明るい状態であり、東方から進行してくる者にとって車両の存在を視認するにつき、著しい困難を強いられる状態ではなかった。

被告平尾は、平成七年九月二七日午後九時頃、別紙図面〈1〉の地点に、被告車両を無灯火で駐車した。右駐車のため、車両が通行しうる西行車線の幅員は、ゼブラゾーンを除いて約二・八メートルに狭められていた。原告は、本件事故現場の東方約一〇〇メートルのところにあるコンビニエンスストアで書籍を購入した後、巧車両を運転して本件道路の西行車線を進行し、平成七年九月二七日午後九時五二分頃、本件事故現場にさしかかり、被告車両後部に衝突し、同図面〈ア〉地点に転倒した。

以上のとおりであって、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告平尾が駐車禁止場所であるやや明るい程度の場所に被告車両を夜間無灯火で駐車させていたという過失が一因となって発生したものであると認められる。そして、被告らは、駐車の理由につき、被告平尾が本件事故現場から徒歩約五分の場所にある自宅に忘れ物を取りに行くために一時駐車したものであると主張するが、被告車両を駐車した時刻から本件事故の発生時刻までには一時間近くも経過しており、単純な一時駐車とみることはできず、駐車にやむを得ない理由は認められない。右諸事情にかんがみると、被告平尾の過失は決して軽いものではない。

しかしながら、他面において、車両の運転者にとっては自己の進行方向を注視することは基本的な義務であるから、巧としても前方の駐車車両の有無につき相当の注意を払うことが期待されたというべきであるところ、前記事故態様によれば巧にも被告車両の有無について注意を欠くところがあったといわざるを得ない。したがって、本件においては、右一切の事情を斟酌し、六割五分の過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(損害額)

1  逸失利益 二九一〇万〇三八四円

証拠(甲二)によれば、巧は、本件事故当時一七歳(昭和五二年一一月二日生)の高校三年生であるところ、本件事故に遭わなければ、一八歳から六七歳まで稼働することができたと解されるから、平成七年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計男子労働者一八歳から一九歳の平均給与額が二四五万〇六〇〇円であること(当裁判所に顕著)を踏まえ、右収入を基礎に、生活費控除率を五割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右稼働期間内の逸失利益の現価を算出すると、次の計算式のように、二九一〇万〇三八四円となる。

(計算式) 2,450,600×(1-0.5)×(24.7019-0.9523)=29,100,384(一円未満切捨て)

2  慰謝料 一九〇〇万円

本件事故の態様、巧の年齢、生活状況その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、慰謝料としては、一九〇〇万円を認めるのが相当である。

3  葬儀費用 一〇〇万円

本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は一〇〇万円をもって相当と認める。

4  過失相殺後の金額 一七一八万五一三四円

以上掲げた巧の損害の合計は、四九一〇万〇三八四円であるところ、過失相殺として六割五分を控除すると、一七一八万五一三四円(一円未満切捨て)となる。

5  損害の填補分を控除後の金額 〇円

前記争いのない事実のとおり、原告らは、本件交通事故に関し、自賠責保険から二一〇九万七四一六円の支払を受けているから、これを一七一八万五一三四円から控除すると、残額はないことになる。

6  弁護士費用 認められない。

右のとおり、損害の填補分を控除した後の損害残額はないから、被告に負担させるべき弁護士費用を認めることはできない。

三  結論

以上の次第で、原告らの請求は、いずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面

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